外傷

当院では救急要請にも積極的に対応し(2019年度の救急車受入数1196件)、外傷の手術も実施しています。アキレス腱断裂などのスポーツ外傷、交通外傷にも対応しますが、高齢化を反映して、大腿骨近位部骨折や脊椎圧迫骨折、橈骨遠位端骨折などの脆弱性骨折が増えています。

大腿骨近位部骨折

大腿骨の股関節周囲の部分に発生する骨折ですが、大きく分類すると、骨折が関節包の中で起こっている大腿骨頚部内側骨折と、関節包の外で骨折している大腿骨転子部骨折に分かれます。いずれも、骨粗鬆症などによる骨の脆弱性や筋力の低下、認知症の進行などが背景として関与しており、若年者の偶発的な骨折とは異なる配慮が必要になります。すなわち、これらの骨折が生命予後に影響することも決して稀ではないとされ、日本整形外科学会が編集した「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン」には、大腿骨頚部内側骨折後1年以内に亡くなる確率は10〜30%であり、大腿骨転子部骨折にいたっては、11〜35%に達するとも記載されています。後者の死亡率が高い理由としては、関節包外の骨折であるので頚部内側骨折に比較すれば出血が多いという特徴も影響しているかもしれませんが、死因の大部分は、続発性のうっ血性心不全や肺炎であるとも結論されています。これらの続発性疾患は、骨折のために寝たきりになってしまうことが主な原因ですので、早期に手術を行い、離床、歩行訓練を促すことが強く推奨されています。当院でもガイドラインに従い、手術を積極的に行っていますので、入院中に亡くなることは比較的稀です。しかし、もともと体力が低下してきたために転倒し、結果的に骨折したと推測されるケースも少なくありませんので、1年以内の死亡率が10%に達するという結論が過大であるとも感じられません。また、深部静脈血栓塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)で急変することもありますので、単なる骨折ではなく、生命にもかかわり得る外傷であるという認識をもって対応することが重要になります。
手術は大腿骨頚部内側骨折に対しては人工骨頭置換術(図1)、

図1 人工骨頭置換術

【図1】 人工骨頭置換術

大腿骨転子部骨折に対しては、骨折型に応じて、スライド式のヒップスクリュー(CHSタイプ:図2左)や髄内釘(ガンマネイルタイプ:図2右)が選択されます。

図2 スライド式のヒップスクリュー(CHSタイプ:左)や髄内釘(ガンマネイルタイプ:右)

【図2】 スライド式のヒップスクリュー(CHSタイプ:左)や髄内釘(ガンマネイルタイプ:右)

大腿骨頚部内側骨折で転位の少ないタイプは保存的に加療することも可能ですが、1日歩かないと1〜3%ずつ筋力が低下していくとも指摘されていますので、疼痛のために歩行訓練ができない場合には、やはりスクリューなどを用いた内固定手術(図3)も合理的な選択になり得ます。

図3 内固定手術

【図3】 内固定手術

いずれも、原則的には手術を行った翌日から起立歩行訓練を開始します。また、院内の回復期リハビリテーションセンターでは、骨折のみならず、心肺機能や認知機能にまで配慮した総合的なリハビリテーションを実施しています。

非定型骨折

近年、骨粗鬆症の治療として様々な薬剤が使用されていますが、骨粗鬆症の治療中であるにもかかわらず、些細な外力で(あるいはほとんど誘因なく)大腿骨に骨折が生じてしまうケースが報告されるようになり、非定型骨折(AFF : atypical femoral fractures)として注目されています。発生頻度は、高く見積もっても骨粗鬆症治療中の患者さんの2000人に1人くらいであり、決して頻繁に見られる合併症でもありませんが、今のところ原因は不明であり、どのような方に生じやすいかも判っていませんので、あまり有効な対処法がありません。
非定型骨折の典型的な発症様式は、しばらく大腿部に痛みが続いた後、ちょっとした動作で大腿骨が折れてしまうというもので、レントゲン検査上、骨折線が水平に走っている部分があるのが特徴です(図4、5)。

図4

【図4】

図5

【図5】

治療は強固な内固定を行いますが(図6、7)、骨折部は非常に癒合しにくいですので、超音波刺激などの補助的な治療が必要となることもあります。10年以上に及ぶ長期の骨粗鬆症治療を行っている方で、原因不明の大腿部痛を自覚されている場合には、疑ってみる必要があります。

図6

【図6】

図7

【図7】

最小侵襲手術(MIPO)

ギプスなどの外固定では安定性が確保できず、骨癒合が期待できない骨折に対しては内固定が選択されますが、チタンなどの金属でできたプレートとスクリューを用いた固定は古くから用いられています。近年、プレートとスクリューが強固に結合できるロッキングプレートも使用されるようになっていますが、ロッキングプレートを用いた場合には、少ないスクリューで安定した固定が可能となるため、最小侵襲プレート骨接合法(MIPO : minimally invasive osteosynthesis)も選択されるようになっています。当院でもMIPOは積極的に行っていますが、とくに、膜性骨である鎖骨骨幹部骨折に対しては、骨折部の骨膜を温存できる上に、出血量も少なく済みますので、メリットが大きいと考えています(図8、9)。

図8

【図8】

図9

【図9】