整形外科

整形外科では、外傷・変性疾患などの一般的な整形外科疾患の治療を行っています。現在、毎週火曜日に『紹介のみ』とはなりますが、骨軟部腫瘍の専門外来を開設しています。かかりつけの主治医とご相談の上、お気軽にお問い合わせください。

  • 日本整形外科学会 整形外科専門医制度 指定研修施設 (指定番号 東京都 第0239号)

代表的な疾患

外傷

外傷とは、交通事故・労災事故・スポーツ外傷に伴う骨折、靭帯断裂などのことを言います。骨折治療においては、ロッキングプレートなどの内固定材料の進歩により、初期から強固な固定が得られるようになってきました。アキレス腱断裂についても、早期から歩行が再開できる術式が普及しつつあります。その一方で、ギプス治療に伴う深部静脈血栓塞栓症などの合併症の危険性が再認識されてきたことから、かつてよりは手術の比重が高まっているのは事実です。もっとも、手術には相応のリスクと負担を伴うのも事実ですので、様々な治療法のメリットとデメリットをご説明した上で、最適な治療法を選択して頂きたいと思います。

変性

変性疾患とは、加齢に伴う軟骨や骨の変性が原因で生じる、膝痛・腰痛などの疾患のことを言います(変形性膝関節症、変形性腰痛症、腰椎椎間板ヘルニア、頚椎椎間板ヘルニアなど)。ただ、同じ変性疾患であっても、40~50歳代の方に多くみられる膝痛や肩痛などの諸症状と、60歳代後半からの高齢な方に見られる障害とは分けて考える必要があります。後者の多くが軟骨の変性や骨の変形・脆弱化などの構造的な問題で説明可能であり、人工股関節置換術、人工膝関節置換術などの手術療法が良い選択になり得るのに対し、前者は単純な原因では説明できない場合が少なくありません。注意すべきは、この年代の方には、検査を行えば、症状とは無関係な変性所見もしばしば見られるようになっているという点です。たとえば、全く膝痛の無い方にMRI検査を行っても、45歳以降の方には、7割程度の確率で半月板損傷が発見されるという報告があります。肩関節に関しても、症状とは関係の無い腱板断裂が、60歳代では5割に、80歳代では実に8割に認められたという調査結果もあります。むろん、これらの損傷が症状に密接に関係していることも当然あり得ますが、手術適応は慎重に判断する必要があります。むしろ、この時期の関節痛に関しては、浮腫が主因であると思われることも少なくありません。女性の場合にとくに顕著なのですが、エストロゲンの低下をはじめとする内分泌バランスの変動は浮腫の原因になり得ます。また、エストロゲン存在下に肝臓で分解されるLDL-コレステロールが上昇し、血管の透過性が増して浮腫が発生するという機序も示唆されています。実際、LDL-コレステロールを適切にコントロールすることにより、結果的に肩凝りや関節痛が軽減することがあります。さらに、降圧薬として処方されているCaブロッカーが浮腫を助長させていることもあり、薬剤を変更していただくことによって愁訴が消失したという経験もあります。

このような背景がありますので、中高年移行期の疼痛性疾患の治療は複雑にならざるを得ません。重要なポイントは安易に消炎鎮痛剤(NSAIDs)を多用しないことです。むろん、短期間の服用が有効である局面も少なくありませんが、漫然と服用と続ければ浮腫が助長されますし、出血性胃潰瘍などの重篤な合併症のリスクも増します。この時期の疼痛性疾患は基本的には自然終息していくことが多いのですが、半年ないし1年程度の長期療養を要することにも留意し、なるべく侵襲の少ない治療を選択していくことが重要です。当院では、侵襲が最も少ないという観点から、外来リハビリテーションも重視しています。ただ、概ね1~3割程度の方には、最終的には手術も必要になってきます。その適応、実施時期に関しては知見も集積されつつありますが、基本的には一定期間の保存療法を実施した上で判断すべきものです。

骨粗鬆症

骨粗鬆症に関しては、近年、治療の選択肢が非常に広くなりました。かつては加齢とともに骨量が減少することは避けられないことであると考えられていましたが、現実に年間数%ずつ骨密度が増加する薬剤は既に広く使用されています。また、2年間の使用で13%以上骨密度が増加するテリパラチドという注射製剤も使用可能になっています。ただ、全ての方にこのような高額な薬剤を適用して良いわけではありませんし、その必要もありません。骨の強度は骨密度のみで決まるわけではありません。骨量が低下すれば、骨の径を太くすることによって代償する機序も存在します。その一方で、脊椎の圧迫骨折を繰り返し、一部が偽関節化して慢性痛の原因になっている方などにはテリパラチドはきわめて有用です。その他、肝障害、腎障害、糖尿病などの方では、骨密度の低下以上に骨の脆弱性が進行している場合があります。骨を鉄筋コンクリートに例えるならば、骨粗鬆症はコンクリートが減ってしまっている状態ですが、コンクリートは減っていないものの、鉄筋が錆びることによって強度低下が生じているという状態もあるということです。骨粗鬆症の治療は骨密度のみを注目するのではなく、総合的に判断して、なるべく負担の少ない治療を選択していく必要があります。

骨軟部腫瘍

骨軟部腫瘍とは、骨にできた腫瘍と軟部組織(主に筋肉、脂肪組織、皮下、結合組織、抹消神経など)にできた腫瘍の総称です。腫瘍には良性腫瘍と悪性腫瘍とがあります。良性腫瘍は発生した部位から離れた部位へ転移することは殆どなく、基本的には生命にはかかわりません。一方、悪性腫瘍は容易に他の組織や臓器へ転移し、放置すれば生命にも危険が及びます。また、悪性腫瘍の場合、周囲の組織に広く浸潤する傾向があるため、手術に際しては、一見正常に見える周囲組織も合併切除する必要があります。これを広範切除(Wide resection)と言います。

ある腫瘍が良性の経過を辿るか、あるいは悪性腫瘍として振る舞うかは、究極的には自然経過を観察しなければ決定できないことです。しかし、悪性腫瘍であった場合、それでは手遅れになってしまいますので、腫瘍が発見された時点で良性か悪性かを推定する必要があります。そのために実施されるのが病理検査です。病理検査では、専門の病理診断医が腫瘍の組織像や細胞の特徴を観察し、腫瘍が正常な細胞のみから構成されていれば良性腫瘍、正常組織には存在しえない異常な細胞が混ざっていれば悪性腫瘍と診断します。

固形の悪性腫瘍には癌腫と肉腫があります。腫瘍細胞が上皮組織に由来するものを癌腫、非上皮組織から発生した悪性腫瘍を肉腫と分類します。骨も軟部組織も非上皮組織ですので、当科で扱う悪性腫瘍は原則的には肉腫になります。

肉腫は極めて稀な腫瘍です。たとえば、本邦における2005年の全部位がん罹患数は年間68万例と推定されていますが、肉腫については、骨軟部肉腫を全て含めても年間2000~3000例程度と推定されるにすぎません。しがたって、四肢にしこりを発見してもすぐに肉腫を疑う必要はありません。ただ、急速に増大する腫瘤や5cm以上に触れる大きな腫瘤を見つけた場合には、早めに専門医に相談されることをお勧めします。ちなみに、しこりを発見しても、手足を切断されることを怖れて病院を訪れない方がおられます。これはとても残念なことです。現在では腫瘍用人工関節や術中照射などの手法が発達していますので、たとえ骨肉腫などの悪性腫瘍であっても9割以上は患肢温存が可能になっています。とくに早期に発見された肉腫は切断が必要になることはまずありませんので、お気軽にご相談下さい。

良性腫瘍の治療は辺縁切除(Marginal resection)が基本になりますが、手術は行わず、経過観察のみとする腫瘍も少なくありません。中には青年期の脛骨に好発する骨線維性異形成(Osteofibrous dysplasia)のように、手術は避けた方が良い腫瘍もあります。その一方で、デスモイド腫瘍(Desmoid tumor)や骨巨細胞腫(Giant cell tumor of bone)などのように、局所再発を繰り返し、治療に難渋するものもあります。また、非常に稀ではありますが、良性の脂肪腫(Lipoma)と診断されている腫瘍の中に、高分化型脂肪肉腫(Well-differetiated liposarcoma)と呼ばれる悪性腫瘍が見分け難く混在していることもあります。良性腫瘍であっても、初期の治療を誤ると、その後の治療が困難になることがありますので、専門医を受診されることをお勧めします。

肉腫の治療も切除が基本になりますが、良性腫瘍とは異なり、腫瘍のみを切除するのでは高い確率(古典的には60~70%)で局所再発を来しますので、周囲の組織も大きく合併切除する必要があります。これが広範切除と呼ばれるものですが、どの程度の余裕を持って切除するかは腫瘍の種類や悪性度によって異なってきます。原則的には最大で5cmのマージンを目標としますが、明細胞肉腫(Clear cell sarcoma)のように、敢えて良性腫瘍のような辺縁切除と放射線治療とを組み合わせる治療を選択する場合もあります。

肉腫治療においては、化学療法、すなわち抗がん剤を用いた薬物療法もきわめて重要な位置を占めています。骨に原発する肉腫の代表である骨肉腫(Osteosarcoma)は、かつては5年生存率が10%にも満たないきわめて悲惨な疾患でした。しかし、1974年に米国のMemorial Sloan Kettering Cancer Centerのローゼンらが、抗がん剤の多剤併用療法にて骨肉腫の5年生存率が80%に向上するという報告を行いました。あまりに目覚ましい成績向上であったため、この報告はすぐに受け容れられるところとはならず、Mayo clinicの医師らが中心となり、1978年から化学療法の効果を検証するための多施設間研究が開始されました。しかし、抗がん剤使用群と非使用群間の生存率の極端な差がすぐに明らかになったため、調査研究は中断されました。現在においては、骨肉腫治療においては、抗がん剤併用は不可欠な治療手段となっています。同様に、ユーイング肉腫(Ewing's sarcoma)、PNET、横紋筋肉腫(Rhabdomyosarcoma)などの円形細胞肉腫の治療においても化学療法は必須と考えられています。その一方で、悪性線維性組織球種(MFH : Malignant fibrous histiocytoma)や脂肪肉腫(Liposarcoma)、平滑筋肉腫(Leiomyosarcoma)などの非円形細胞肉腫に対する抗がん剤の有用性を検証することは困難でした。それは、これらの肉腫の予後がもともと骨肉腫ほどには悪くなく、抗がん剤を併用しなくとも60%程度の5年生存率が達成できていたことも影響しています。これは純粋に統計学的な問題ですが、骨肉腫のように、5年生存率が10%から70%に上昇することを確認するのであれば、αエラー、βエラーをそれぞれ5%とした場合、抗がん剤使用、不使用の各群が20例以下であっても有意差を検証出来ます。一方、抗がん剤によって5年生存率が60%~70%に10%改善することを証明しようとする場合には、各群200例以上の症例数が必要になります。肉腫はもともと非常に稀少な疾患ですので、条件を揃えてこのような調査を行うことは容易ではありませんでした。しかし、1990年頃からEBM(Evidence based medicine)という概念、つまり信頼出来る医学的証拠に基づいて医療を行うことの重要性が強調されるようになり、解析手法としてもメタアナリシスなどが導入された結果、2003年頃から、非円形細胞肉腫に対する化学療法の有用性に関するエビデンスも得られるようになってきました。現在までに、化学療法の意義を検証するための様々な大規模調査の結果が公表されていますが、きわめて単純に述べるならば、四肢の切除可能な軟部肉腫に対して化学療法を併用することにより、局所再発や遠隔転移のリスクが3割程度減少し、10年生存率も最大で10%程度向上することが期待できると考えて良いようです。しかし、これは微妙な数字であるかもしれません。化学療法を実施するためには半年程度の長期療養が必要になりますし、生命に危険が及びうる様々な合併症もあります。それでも、肉腫における10年生存率は、ほぼ治癒率に近いものですので、その10%の向上は決して小さなものではありません。肉腫を治療する際には、化学療法も積極的に検討された方が良いと思います。当院では、がん化学療法看護認定看護師の常駐する化学療法室を設置し、外来および入院にて、安全に化学療法が実施できる体制を目指しています。

化学療法は、今後も肉腫治療において重要な役割を果して行くと考えられますが、近年、肺癌などの固形癌の領域では分子標的薬による治療も目覚ましく発展しています。残念ながら稀少疾患(Orphan disease)である骨軟部肉腫の領域では、分子標的薬の開発治験にも困難が多いようです。現在使用できる分指標的薬としてはPazopanib(ヴォトリエント)に限定されているのが現状ですが、当院ではPazopanibの使用も可能になっています。ただ、心不全や肝障害などの副作用も無視できまない印象で、化学療法に置き換わる治療というよりは、抗がん剤とうまく組み合わせて使用していく薬剤であると思います。もっとも、滑膜肉腫(Synovial sarcoma)に対する新薬も治験段階にあるなど、この分野の発展には目覚ましいものがあります。肉腫治療は新たな局面を迎えつつあるのかもしれません。

整形外科で扱う悪性腫瘍は肉腫のみではありません。癌腫の骨転移も重要な治療対象の一つです。一般に、癌腫の2割程度に骨転移が発生すると推定されています。残念ながら、癌の骨転移は症状が出現によって認識されることが多いのですが、脊椎や骨盤、大腿骨近位部への骨転移は、麻痺の出現や骨折などによって、日常生活度(ADL)の低下に直結します。症状が出現する以前に発見し、早期に治療を行うことが重要です。

骨転移病巣の検索には骨シンチグラフィーやPETが重要な役割を果たしますが、前者は約11mSv、後者は約22~23mSv程度の内部被爆が避けられません。むろん、得られる情報の重要性に照らすならば、甘受すべき問題であるとも言えるのですが、当院では被爆が全く無いという大きなメリットに着目し、MRI全身拡散強調撮影法(DWIBS)によるスクリーニングを実施しています。拡散強調画像(diffusion MRI)にはまだまだ未知な部分も多く、これのみに頼るのは危険であると思います。しかし、転移の検索は定期的に繰り返し行う必要がありますので、全く被爆しないというのは大きなメリットになり得ます。がん治療認定医は、がんを治療するのみならず、がんの予防においても重要な役割を果たすことが期待されています。

がんの緩和医療は、かつては、治癒を目的とした治療が無効になった方に対して適用される、身体的精神的苦痛を和らげるための特殊な治療と理解されていました。現在でも同様の認識をお持ちになっている方も少なくないと思われます。しかし、2002年にWHOはその定義を大きく変更し、「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より身体的・心理的・社会的・スピリチュアルな問題に関してきちんとした評価を行い、それが障害とならないように予防したり対照したりすることで、クオリティ・オブ・ライフを改善することである」としています。当院では、早くから、がんは患者さん本人のみならず、ご家族にも深刻な影響を及ぼしうる問題であると考え、臨床心理士による介入やご家族が長期滞在できる施設の拡充に努めて来ました。その際、八国山緑地の一角を占めるという当院の立地は、がんの治療を行う上では、非常に有利な環境を提供してくれていると感じています。背後に広大な緑地を控え、四季折々に虫鳴き、小鳥囀る周辺環境は、都心部では望み得ないものです。若干のアクセスの悪さとトレードオフの関係にあることは否定しませんが、長期入院を余儀なくされることの少なくない悪性腫瘍の治療においては、恵まれた周辺環境も重要なポイントになってくると思います。